実用的なものを中心に収集した、B級ガイコツグッズコレクションをお楽しみください。
GAIKOTSU:Skull goods collection 100items or more.

野晒について what is Nozarashi

2006/11/13 update | home

骸骨好きを自称するわたしも、本物の骸骨は博物館でしか見たことがありません。

日本では、通夜がすむと、遺体は火葬場で荼毘にふされます。 祖母を火葬にしたときは、わたしも骨を拾いましたが、骨はみんなかけらになってほとんど形をとどめていませんでした。

日本ではじめて火葬が行われたのは、西暦700年だそうです。火葬はインドから伝わった風習です。 その後、江戸時代くらいのひとはまだ、野に晒された骸骨を目にしたでしょう。 人の死んで朽ちていく姿も、間近に見ることもあったかもしれません。 日本でも、死は人目に触れる身近なところにありました。

腐敗し、白骨化し、草や砂にまみれた骸骨を見て、人は好むと好まざるとにかかわらず、死を納得し、受け入れたのでした。 多くの歌人や画家がその思いを書画にして残しました。 その象徴が野にさらされた骸骨、「野晒し(のざらし)」です。また、風雨にさらされた頭蓋骨を「曝れ頭(されこうべ/シャレコウベ)」や「髑髏(どくろ/ドクロ)」と呼びました。

「野晒し」は、日本で古くから好まれてきた書画の主題です。

NOZARASHI MOTIF (着物にみられる野晒図)
About kimono, sometimes we come across the motifs of ghost or skull bone. Men's kimono have them comparatively often compared to women's one. If we find them in vintage kimono, the price must be very high for its raritys. Once I have seen a beautiful ghost motif yuzen kimono offered at an auction, pirce was amazingly high. Skull bones motif is called 'Nozarashi', which means ' bodies exposed('sarasu') in the field('no'). There are some folk or horror tales about Nozarashi, and it was seem to be popular motif at a term. Nozarashi was considered to be a symbol of the kind, which means the courage or preparedness. Nozarashi motif in the shoubou banten(firemen's jacket) is the very good sample of it.
(source: Ichiroya blog, Kimono Flea Market ICHIROYA)

野晒の扇面
花の時/迷ひしもこの/枯野かな
野晒の扇面 "Nozarashi fan", Edo Period.
江戸時代「八万四千煩悩主人図」豪潮寛海(1749-1835)
source: 佐賀大学付属図書館 貴重書コレクション

野晒のスカジャン
野晒のスカジャン(横須賀ジャンパー) Nozarashi souvenir jacket
source: USAカジュアルウエアーSCRIPT

いつかはともにシャレコウベ

人それぞれいろんな生き方があるように、いろんな死に方がありますが、老いること、死ぬことは誰もが体験します。また、人はそれぞれ違う顔や身体をもちますが、死んで自然に帰るときはみな白骨になります。

同じ人間同志、最期は似たようなものなのだから、争うことや競い合うことは虚しいことだ、という考えを、たくさんの人が作品や書に表してきました。

いつの時代にも、人は他者との競争や格差に悩み、いつか訪れる死を思うことで、平和を願い、自らをなぐさめてきました。

いずれはともにシャレコウベ
喧嘩しないで/くらそじゃないか/すゑはたかいに/この寿かた
伊達政宗遺訓
Don't quarrel my honey, in the end, both of us become such a skeleton.
(Date Masamune's Last Instructions, Sengoku period.)
source: 伊達政宗公遺訓 松島博物館所蔵 (画像は複製をもとに作成)

ガイコツに象徴される無常観

初めて手に入れたガイコツグッズは、ポサーダのTシャツ。名古屋市美術館のアートグッズでした。楽しそうに自転車に乗る骸骨たち…。ポサーダの骸骨の滑稽ぶりと生き生き?したようすに、すっかり魅了されました。

ポサーダは南米の風刺画家です。南米には、「死者の祭り」という祭りがあり、様々な造形の骸骨の人形がパレードしたり、祭壇に砂糖でできた骸骨を供えます。死者と死を祀る、賑やかな行事です。

ガイコツたちのサイクリング
ガイコツたちの珍走
ホセ=ガダルーペ=ポサーダ 版画
Jose Guadalupe Posada "bicycle riders"

西欧では、戦争やペストの流行で多くの人が亡くなり、葬儀や埋葬が追いつかないほどだった時代に、早かれ遅かれいずれ訪れる死に備えるよう、「死を想え(メメント・モリ)」ということが説かれました。しかし、死への恐怖と生への執着に憑かれた人々は、自然発生的に半狂乱になって倒れるまで踊り続け、この集団ヒステリーの様相は「死の舞踏」と呼ばれるようになりました。

この「死の舞踏(ダンスマカブル)」という主題に基づく西欧の絵画では、皇帝、君主、教皇、修道僧、若者、美少女が骸骨で描かれます。人は、生前は異なる身分に属しそれぞれの人生を生きていても、死は、身分や貧富に関わりなくすべてのひとに訪れる、という死生観です。

日本では、古くから、地獄絵などに骸骨が描かれました。
安楽寺「小野小町九相図」は、絶世の美女であり才女と謳われた小野小町をモデルに、華やいだ生活を過ごした絶世の美女が、死を迎え、屍相(しそう)が変化し、やがて骨だけになって、土に帰る姿を描いたもので、人の世の儚(はかな)さや無常観(むじょうかん)を絵解きする目的で作成されました。

身分の高い者のところへ訪れた死
身分の高い者のところへ訪れた死
ハンス=ホルバイン「死の舞踏」木版画
Hans Holbein "The Dance of Death", wood print.
source: 死の舞踏(美術)Wikipedia

ポサーダの骸骨のようなガイコツの滑稽画を描いた日本人に、一休宗純がいます。

一休は、「一休骸骨」に、木立の下にまどろむ骸骨、添い寝する骸骨、歌や踊りに興じる骸骨を描きました。また、「いずれの時か夢のうちにあらざる、いずれの人か骸骨にあらざるべし」と、元旦に骸骨を振りかざして街中を練り歩きました。

墓石の前で踊るガイコツ
なきあとの/かたみに石が/なるならば/五りんのだいに/ちゃうずきれかし
一休宗純「一休骸骨」
A skeleton man is dancing. He is proud of his valuable stone grinder in spite of he has already died. (Soujun Ikkyu "Ikkyu Skeleton", Muromachi period.)
source: 鳴き砂 粉体工学:一休骸骨

生きている人のように振舞う骸骨は、人々に世の無常=人生のはかなさを説きます。一方で、世界各地に伝えられる「愉快に踊り騒ぐ骸骨」の寓話は、どんな苦しみも死によって解き放たれることを教えてくれます。

南米の「死者の祭り」、西欧の「メメント・モリ」、日本の九相図や野晒図、「一休骸骨」に共通するのは、死を身近に感じましょう、ということです。そんな思いの流れを汲む骸骨グッズを収集し、タブーでなく日常の記号にすることで、なぜか心が落ち着く感覚があります。

いつか死ぬそのときまで、この仮の世界に精一杯生きる。
人生のはかなさを知るということは、人生の不思議さ、素晴らしさを知ることにほかなりません。

copyright (C) dokuninjin all rights reserved.